隣の芝は どうしていつも 青いのか

誰かにとっての「隣の芝」になれるまで、言葉を考え、言葉に悩む。

039-2 「狂気」の先にあるもの~後編~

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11/3に行われた『さよならたりないふたり~みなとみらいであいましょう~』、

前回の記事に引き続いて、観た感想を残していこうと思う。

 

※前回の記事は こちら。 

kobakkuma.hateblo.jp

 

今回は、少しだけネタバレを含むことになりそうなので、TV放送で初めての"興奮"を

味わいたい人は、ご注意くださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

それでは、第二部のスタートです。

 

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僕にとって、山ちゃんも、若ちゃんも、どちらも心から憧れる芸人である。

 

山ちゃんの著書、『天才はここにいた』『天才はあきらめた』も読んだし、

若ちゃんの著書も結構読んだ。オールナイトニッポンの番組本も。

publications.asahi.com

www.kadokawa.co.jp

www.kadokawa.co.jp

 

books.bunshun.jp

 

どちらも、心から憧れているのは間違いないのだが、それでも、どちらかと言うと、

若林正恭という人間により強く憧れている自分がいる。

 

自分でも何故かは分からないが、若ちゃんの文章では涙がよく出るのだ。

 

 

なので、この公演の感想も、気付くと若ちゃんを主体にしたものになっていた。

 

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TV番組『たりないふたり』の仕組みを知ってる人はお馴染みではあるが、

彼らは番組のTwitterアカウントを共有して、お互いにつぶやきを投げ合うのが

恒例だった。

 

この時点でもう、記事のタイトルにも挙げた「狂気」はスタートしていたのだ。

 

 

全くの情報解禁前にも関わらず、『たりないふたり』のアカウントを使って、

「11/3に、横浜で、何かある」ことを発信する若ちゃん。

 

 さらには、山ちゃん嫁へのいじり、グッズの情報漏洩、果てには伝説の枕詞、

「明日以降に情報解禁なのですが」Creepy Nuts書き下ろしの新曲までもが

オープンになっていく。

 

慌てる山ちゃん、企画の安島さん、構成のサトミツ氏、そして他たくさんの大人たち。

 

 

時間がある人は、是非このアカウントの9/20から11/3までの「文責・若林」に注目して

眺めてみて欲しい。およそ大番組のMCを務めている大人の行動とは思えない。

twitter.com

 

当日、舞台にはホワイトボードと会議室にあるような長机が用意されていて、

以前と同様、漫才の設定や流れの打合せ部分からお客さんに見せつつ、

本番の漫才を考えていく…のかに見えた。

 

 

 

そこで「狂気の男・若林正恭」が取った行動は衝撃的なものだった。

 

打合せ、漫才の設定に関して、9か月ぶりに再会した山ちゃんと一切話すことなく、

そのまま1時間超えのアドリブ漫才に入ったのだ。

(厳密には、フリートークと漫才と漫才コントの中間くらい?)

 

 

山里亮太ほどの能力者ならイケると踏んでいた、あるいは、山里亮太ほどの能力者を

舞台上でガタガタ震わせてやろうと思ったに違いない。

 

この進行に、間違いなく観客全員が度肝を抜かれたはずだ。

 

 


1時間以上ぶっ続けで行った漫才が終わり、2人で反省会をするパートになると、

おもむろに、、

 

「あ、あれ言いたかったんだよ、山ちゃんが結婚会見で最後に言ってた、

 『ご指導ご鞭撻のほど…』  あれさ、ちょっとやっていい?」

 

 

完全に「狂気の"ゾーン"」に入っている若林は、あろうことかもう1本、しかもこれも

1時間級のアドリブ漫才を始めたのだ。

 

 

ただ、この2本目の漫才パートで起きた事件が、二部構成の感想を抱かせるほどの熱量を

僕に与えることとなった。

 

 

1本目の漫才から、若ちゃんがSMの女王様&山ちゃんがM男に扮して漫才コントをする

件(くだり)があり、2本目でもその設定が継続される場面があったのだが、

 

 

女王様のトーンが少し変わるやいなや、

「今のあなたは勝ち組ですか? それとも負け組ですか?」と、

強烈な二元論のムチを放ったのだ。

 

 

M男は、少したじろぎながらも、自身のラジオ「不毛な議論」で結婚報告をした回の

ラスト5分のようなトーンで語り始めた。(めっちゃ感動的でした

 

 

先述の著書『天才はあきらめた』では、

「劣等感は最高のガソリン」「嫌いな奴を燃料にして、脳内で圧倒的な勝利を掴め!」と

"下から関節を極める"ような立ち振る舞いを明らかにしていた。

 

しかし、あの大女優と結婚することによって、いよいよ、富・名声・力・・

漫画ワンピースで言う "この世の全て" を手に入れ、「隠れとんねるず」になっているのが、

今のM男の社会的ステータスである。 

 

 

今まで自分が装備してきた、妬み嫉みその類いの武器で戦ったところで、

(嫁が蒼井優なのに)っていう枕詞が付いた瞬間、明らかにそれまでの形勢とは異なる、

上からのマウンティングと思われかねない。

 

しかも、大番組のMCを任され、後輩も増え、周りの対応はどんどん"ライオンMC"を

扱うような対応になっていて、きっとド直球には言われないレベルになってたんだと思う。

 

 

 

別にこれは彼らだけの話では無いと、僕は思っている。

 

僕の場合、自分の状況を誰かに言い当てられたときや、自分が思いそうなことを先に

誰かにアドバイスされたりすると、どうしようもなく涙が出そうになる。

その「誰か」は、決まって、自分がとても信頼をおける存在だ。

 

 

 

それまで2時間近く、筋書きの無いストーリーに巻き込まれ、「狂気」でギラギラした

若ちゃんと何とか対峙することで、この舞台を守ってきた山ちゃん。

 

かなり疲弊していた中で、不意打ちのような本質を突く問いかけ。

 

 

そんな状況下でも、逃げずに、リアルトーンで自身の "呪縛" を解き放ち、

次のステージに踏み出したこと、また新しい武器を探して戦い続けていこうと決意した

この瞬間こそ、何よりもこの公演のクライマックスだった。

 

 

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同時に、僕はこの「劇薬・若林正恭を、どこかで見たことがあるなと思った。

 

 


そうだ、相方・春日のフライデー事件のときのラジオだ。

 

あのときも、むちゃくちゃキレているように見せて(実際めっちゃキレたんだろうけど)、

春日のことを週刊誌やワイドショーで変に弄ばれないように、93番(春日の嫁のこと)を

電話で登場させ、他でもない春日本人に謝罪させていた。

 

もはやあれはドキュメンタリーだったとさえ思う。

 

 

この時の放送は、本当に若ちゃんはとち狂っていた。

というか、この回よりもっと前から、ラジオでは「狂気」を放っていたのだけど。

 

 

 

若ちゃんの「狂気」は計算しているのか、はたまた感覚で転がっているだけなのかは

誰にも分からないが、 この「狂気」によって救われた人を、僕は少なくとも2人知っている。

 

 

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打合せゼロ、完全即興だからこそ可能な脱線と、それによって辿り着いた奇跡的な瞬間。

 

若ちゃんの「狂気」は、カタルシスとも言える感覚をもたらしていた。

彼の著書を読んで涙を流していたのは、こういう要素も影響していたのかもしれない。

 

 

"たりない"という言葉が、こんなに前向きなものだったなんて思わなかった。

趣味の悪い先入観は、全く要らない。

 

そのことを、かつての "たりないふたり" から、力づくで教えてもらった気がした。

 

 

次の "たりない" ステージが2人には待っているはずだし、そこからどんな景色が見えるのか、

ノーガードで撃ち合う2人をまた見られますように。

 

 

さよなら?いや、こんにちは。

 

拝啓、新しい "たりないふたり" 様 へ。

 

 

毎度お読み頂き、ありがとうございます。

written by kobakkuma.

こばっくま (@kobakkuma) | Twitter